ネコをアルコール中毒にした実験がある。
実験したのは、ウィーン大学の研究室。
まず、開けるのが少し複雑な箱を用意する。
この箱は、ボタンを押したり、レバーを押したりすることによって開く箱で、ネコは、訓練によりその箱を開けられるようになり、中に入っている餌を食べることができるという仕掛けである。
ネコが箱を開けられるようになると、しばらくの間はその動作を繰り返し行わせることで、餌がちゃんと食べられることをネコに覚えさせる(パブロフの犬を作るのと同じ要領)。
そして、ネコをアルコール中毒にするための実験が始まる。
ネコが箱を開けた瞬間に冷たい風を吹きかけるのである。
ネコは驚いて逃げるが、次に箱を開けたときには風が来ない、その次に箱を開けたときには風が来る、というように不規則な動作を繰り返す。
すると、ネコは箱を開けることに不安を覚えて臆病になり、次第に食べること自体が恐怖となり、やがてノイローゼになる。
このような状態のときに、アルコールを少し混ぜたミルクと与えてやる。
すると、最初のうちは用心深くにおいを嗅いでいるだけなのだが、やがて飲み始める。
このようにしてアルコールを与え続けていると、ネコの様相は一変し、風が吹くのもおかまいなしに箱を開け、餌を食べるようになる。
しかしこの状態は長続きせず、アルコールが切れると、もとのノイローゼ状態に戻ってしまう。
そして、頭が混乱したネコは、空腹と不安の板挟みにあい、そのような状態を克服するために、アルコールを欲しがるようになる。
アルコール中毒になると、動作は鈍く、なまけぐせがつき、本来のネコの敏捷さを失ってしまう。
屋根裏伝いに歩くことができなくなり、床に腹ばいのままとなり、だらっとしてくる。
アルコール分の少ないミルクと多いミルクを一緒に並べておくと、多い方の皿をなめるようになる。
また、アルコールへの執着は断ち切り難く、アルコールを求めて動き回るようになり、自力ではアルコールを断つことができない状態になってしまう。
基本的に、ネコはアルコールを飲まない。
ネコに限らず、動物はみな、最初のうちはアルコールが嫌いであり、人間だって最初は苦手である。
それが、いやだ、いやだ、と飲み続けているうちに飲めるようになるのがアルコールである。