初代江戸城の城主・太田道灌は、和歌に通じていたため、和歌の内容に従って行動することにより、犯罪者を討ち取ったことがある。
ある日、道灌の部下である7人の武士が罪を犯したため、殺さなくてはならない事態が発生した。
しかし7人の武士は、屋敷に閉じこもり、600名もの兵士を相手に必死になって抵抗していた。
そこで道灌は一計を案じ、
「お前たち7人を討ち取るのはたやすいが、中に1人だけ助けたいものがいるので手が出せない。しかし、これ以上待てないから攻撃する」
と告げて、攻撃を開始した。
すると、7人の武士全員が「1人だけ助かるのは俺ではないか」と思ってしまったため、剣先が鈍り、7人とも討ち取られてしまった。
手際の良さに感動した部下たちは、道灌に対し賛辞の声を送ったところ、道灌は和歌をよみ上げることで、部下たちの声にこたえた。
「世の中に ひとりとどまるものならば もしわれかはと 身をや頼まん」
(この世に一人とどまる者がいたとしたら、もしや自分ではないかと期待するだろうか、いやしない)