第二次世界大戦初期、イギリス軍はドイツ軍の暗号を解読し、古都コベントリーが爆撃される情報を事前に入手していたが、イギリスの首相チャーチルはその報告を握りつぶし、古都コベントリーは爆撃により壊滅した。
暗号解読の報告を受けたチャーチルは、しばらくの間、考え込んだ。
劣勢とはいえ、なけなしの航空部隊を総動員すれば、コベントリー市を守り切ることはできるだろう。
しかしそれと引き換えに、ドイツ軍は、自分たちの暗号が解読されたことに気づくかもしれない。
もしそうなってしまったら、暗号解読というイギリスにとって有利な状況を、自らの手で捨ててしまうことになるではないか。
コベントリー市ひとつを守り抜くためだけに、これほど有利な手札を切る必要はあるだろうか。
そう考えたチャーチルは、コベントリー市民を見殺しにすることを決意し、市民数百人が犠牲となった。
ちなみに、このときのドイツ軍の作戦名は「月光の曲作戦」と呼ばれている。
皆既月食の晩、月が明るいうちに離陸し、月食で暗くなった合間に市へと近づいていき、皆既月食が終わって明るくなった所で猛爆撃をするというものだった。
しかし攻撃日が皆既月食の晩ではなくなってしまったため、作戦名のみが残ることとなった。
コベントリー市が爆撃されてから少したったある日、今度は、イギリスの人気俳優が乗るアメリカ行きの飛行機が、ドイツ軍に狙われているという情報を、暗号解読班が探知した。
しかし、この時もチャーチルは情報を握りつぶし、俳優は予定通り撃墜されて、予定通り死んだ。